こんにちは、ほわいと(@t_e_white)です。
演出家・鈴木忠志さん率いる、富山県利賀村の演劇祭「SCOTサマーシーズン2018」に参加してきました。
1週間ほどの開催期間の中で、私は2日間参加をしました。
今回は2日目の記事です。
1日目の記事はこちら。
民宿の茂平衛さんに宿泊しました。
朝ご飯が完璧なる日本の朝食セット。
囲炉裏の前で頂きます。


連絡バスで、利賀芸術公園へ!
目次
鈴木忠志トーク


約1時間半、観客からの質問にひたすら鈴木忠志さんが答えるという企画です。
鈴木忠志さんの人柄
このトークを通して、もちろん深い内容のお話も多かったものの一番に感じたのは、鈴木忠志さんという人間から感じられる「求心力」でした。
口調は昔ながらの荒さがあって、物をとてもはっきりと仰るのですが、その中にとてもあたたかい人柄を感じました。
半世紀以上に渡って演劇と社会と向き合い続けた人から放たれる言葉は、本質を感じずにはいられません。
齢80歳を過ぎても、自分の足で歩いて人前で語るというのは、なんてバイタリティのあふれる人なんだろう、と。
昨日上演された「世界の果てからこんにちは」の上演後にも、世界各国の関係者を舞台上に呼び集めて紹介をしたり、人と関わることが本当に好きなんだなと感じました。
鈴木忠志さんの元にたくさんの人が集まる理由が、少し見えたような気がします。
SCOTの演劇作品は、クオリティは高い一方かなり独特で、俳優の訓練が欠かせないものなので、ある意味公共劇場ならではの「ふさわしさ」かもしれません。
ただそれが、30年以上に渡るバックアップが行政から得られたのは、鈴木忠志さんの人間力と、地域に他に観光名所がなかったからだとも思うのです。
それだけに正直、鈴木忠志さんがいなくなってしまった後の利賀村や施設たちはどうなってしまうんだろうとも思いました。
トーク内容のメモと感想


順不同で、私の印象に残ったものから書き連ねていきます。
- なぜ演劇の道を選んだのか。→演劇は世の中を知るのに都合が良かったため。
- 人間観察が面白い。
- 日本の教育をあまり信じていない。日本人の方が日本語を上手く使えていなかったりクセがついたりしていることから。
- 言葉を大きい声で言おうとすると、言葉の頭ばかり強く発音しようとする稽古が多く見られる。細かいけれど、大事な視点。
- 体幹がどんどん弱くなっている。洋式トイレが与えた影響は大きい。
- 俳優の身体のテンションが命の舞台。役者の比重がものすごく高い。
- 芸術はスポーツによく似ている
- SCOTでは、本番3時間前から毎回稽古をする
- 演劇の3要素とは、身体・言葉・集団である。
- 利賀村とSCOTは、間口は広く、誰でも受け入れられる一方で、緊張感のある閉じたグループである。
防衛青年の勇気
このトーク中に、1人の青年の勇気ある行動が、その人生を変えていくのを目の当たりにしました。
その青年は、1日目のときに整理番号が近いために話すようになった、防衛大学校の青年です。(以下、防衛青年とします。)
彼は、これまで演劇を生で観たことがなく1日目に観たものが人生初観劇で、たった1人で富山までやってきたそうです。
トークが始まる前も、
「質問したいことがあるのですが、緊張します。」
と話していました。
トークの中盤、いよいよ防衛青年は手を挙げて、鈴木忠志氏に質問します。
「利賀村や演劇作品について、時間の流れ方が軍隊と似ていると思ったのですが、これにいつ気がついてなぜ取り入れたのでしょうか?」
鈴木忠志氏は、軍隊も知らないのに例に出すなんて、と笑うのですが、彼は自衛隊に入隊予定の防衛青年。
彼は答えます。
「僕は軍隊にいるんです。」
ここから、鈴木忠志氏の目が変わりました。
「どんなところが似ているんだ?」
「昨日の舞台はどうだった?」
「なぜ利賀まで来たんだ?」
と、重なる会話。
舞台上に呼んで観客全員の前で普段やっている訓練の話をさせたり、突然防衛青年を蹴り飛ばして体幹をチェックしたり。
でも防衛青年は、よろけることはありませんでした。
やがて鈴木忠志氏は、防衛青年と握手して、告げました。
「ウチに来る気になったらいつでも来なさい。」
会場からは割れんばかりの拍手!!
その場にいた全員に感動を与えました。
防衛青年がこれからどんな道を選択するのかは分かりませんが、ほんの少しの勇気で手を挙げたことで人生を広げていく様を、目の当たりにすることができました。
ちなみに質問の答えは、鈴木忠志さんが防衛青年に質問し続ける形で盛り上がってしまったので解答を得られず。
私も気になったのになー。
トークが終わり、お昼には手打ちそばを頂きました。(写真を取り忘れました・・・)
トロイアの女
私の利賀村での最後のプログラムです。
デュオニュソスが男性主軸だったのに対し、この作品は女性主軸のギリシャ悲劇です。
会場の中に入った時から、舞台上には車いすに乗った男が一人じっと佇んでいます。
SCOTの上演スタイルは、ストーリーを届けるというよりは、俳優の身体と台詞と劇場空間をフル活用していかに濃密な時間にするかというところに集約されているんだなと、これまで3作品みてきて改めて感じました。
日本伝統芸能のお能にかなり近い世界感(あるいは演技様式)にも思えました。
あとは事前に、ギリシャ悲劇を予習しておくとより楽しめたのかな、と。
演出でどうしても分からなかったのは、なぜ開演前からずっと佇んていた車いすの男は、最後にカーテンコールになって立ち上がっていなくなったのか。
そんなに未来や救いを彷彿とさせるような終わり方ではなかったと思うのだけれども・・・
この男だけが一礼もしなかったので、もしかしたらカーテンコールのつもりではないのかもしれません。
「トロイアの女」を観劇後は、バスに乗り富山駅、そのまま新幹線で帰宅しました。


SCOTサマーシーズンに全体を通して思ったこと
演劇のことを考えるためだけの時間と空間がそこにはあります。
もちろん生活のための時間や空間もあるのですが。
利賀村で黒いTシャツを着て木刀を持ち歩く人を見かけたら、彼らは役者だと一目でわかります。
木刀で体幹を鍛えているのかー、なるほどなー。
上演作品はどれも、テンションと張り詰めた空気感があります。
例えば咳払いなどをしてしまうと濃密な空間にヒビが入るような状態になってしまうので、観客側にもコンディションを整えることが求められるなぁと思いました。(別に咳払いしても睨まれるとかはないので大丈夫です!)
イベントに参加している人と雰囲気
老若男女、世代を問わず集まっていました。
それでも何となく、演劇好きが集まっているんだなぁという共通の雰囲気があります。
なんというか、落ち着いているけど上品ではないという感じ?(笑)
シーズン中は、特に「世界の果てからこんにちは」では700人以上の観客を動員しているので、数百人もの人が出入りしています。俳優も普通に歩いてます。
2日も一つの村で過ごしていると、見知らぬ人との交流が増えます。
サマーシーズンのイベント自体はもう10年以上続いているそうですが、初参加の人もたくさんいました。実際、私が今回知り合った人たちの半分以上は初参加でした。
持ち物などについて


写真はSCOTに参加する際に登録する友の会の会員証ですが、これは無くても支障はありませんでした。ただ会員番号は控えておくと良いですね!
一つ訴えたいのは、虫除けスプレーは絶対に必要です!
都内の蚊よりも強い蚊なので、ハッカが効果的だと教えていただきました。
一番確実なのは、長袖を羽織って足も素では出さない方が良いとのことでした。
あとは普段電車以外の乗り物に乗らない方は、バス酔いに注意です!
私の場合、飴をなめているとずいぶんと楽になりました。
基本的に全ての会場の座席に背もたれはありません。場所によってはクッションもないので、気になる方は持参しても良いかもしれません。(野外劇場公演ではクッション貸与がありました。)
SCOTサマーシーズンに2日間参加した諸費用のまとめ。
注:あまり節約型ではありません。
- ご飯や飲み物、バス代など合計 7000円程
- お土産 3000円程
- 新幹線往復 20000円程
- ホテル2泊 10000円程
つまり、サラリーマンコースでも4万円あれば充分に楽しめます!!
最後に
ここまでSCOTサマーシーズンに参加したレポートをまとめてみました。
私としては、毎年行きたいかと言われると正直どうしようかなと思うのですが、「世界の果てからこんにちは」は、ぜひもう一度観たいです。
というか、一度はみんなに観てほしいです。劇場でやるだけが演劇じゃないんだってば。
来年は「シアターオリンピックス」というイベントで世界各国の劇団が集まるようなので、これもぜひ参加したいです。
最後に。
この記事を読んでくださったあなた、来年、富山で会いましょう!!
関連リンク
SCOTサマーシーズン2018公式サイト
天空と星空のシアターヴィレッジ